シャド編
シャド
「私の初めての記憶は檻の中。手足の自由は無くて、言葉も良く分かっていなかった。薄い布と味の無いスープ、知らない男たちの遊び相手になる日々。後になって気が付いたけど、部屋の隅にはきっと母と呼ぶべきだった塊があった。だから少しずつ考える事をやめた。痛みも悲しみも喜びも感覚も少しずつ手放して、生きているのか死んでいるのかもわからなくなっていった。そんなある日、身体が動かなくなった。息をするのも苦しくて、瞼を開けてもずっと夜みたいに真っ暗だった。いつも私を引っ張る大人が舌打ちをしながら「もう使い物にならねえな」そう言うのは聞こえた。そして私を担いで、どこかに放り投げた。虫の泣き声が聞こえてくるだけの世界。指先の感覚が無くなって行く。口の中は鉄の味がして、もう私このまま死んじゃうんだって思った。それまでは死んでも良いって思ってたのに、急に怖くなった。死にたくない、死にたくないよ。まだ、まだ。」
スカーレット
「生きてみたい?」
シャド
「生きてみたい。生きてみたい。」
スカーレット
「人間じゃなくなっても?」
シャド
「私、人間だったの?」
スカーレット
「そうね、どうでもいいことだと思うわ、そんなこと。おいで。」
シャド
「お母さん・・・?」
スカーレット
「ごめんね。」
スカーレット、シャドを抱きしめる
その首筋に噛みつく
ギュールズ
「お前か、新たにスカーレット様の僕になったと言うのは。奴隷ごときがスカーレット様の血を頂くとはな。」
シャド
「別に僕は何て言われても構わないけどさ、スカーレット様を悪く言うならただじゃおかねえからな。」
ギュールズ
「随分と威勢がいいな。なら、その命スカーレット様に捧げて見せろ。」
シャド
「お前に言われるまでもないんだよ。」
ギュールズ
「名前は?」
シャド
「シャドだ。スカーレット様につけてもらった。」
ギュールズ
「そうか。シャド、私はギュールズだ。」
暗転